高橋淳を読む 2回目 『淳さんのおおぞら人生 俺流』

人生を楽しむ生き方

高橋淳 『淳さんのおおぞら人生 俺流』
2008年8月25日 初版

この本は先に紹介した、『95歳、余裕綽々 世界最高齢パイロットの人生操縦術』という本のの10年前に出た本です。

この本には「航空界の至宝 85歳、現役パイロットが語る 空への尽きぬ情熱と飛行機たちへの愛」という副題がついています。

『95歳・・・』の本の10年前ですから、この本の発刊時は、確かに85歳の現役パイロットですね。そして『95歳・・・』の本は、この本が元になっています。

ただ、この本の後ろ半分は、高橋さんが操縦した飛行機の紹介になっています。そのため、この本は飛行機マニア向けの性質もあります。そして、その飛行機の紹介が実に楽しそうなんですよ。

日本人はいい意味で、真面目で深刻な人が多いと思うのです。しかし、高橋さんは旧職業軍人パイロットで死線をさまよった人なのに、そういうところがありません。

高橋さんは、明るく率直で人生を楽しむ人です。

例えば、彼は、日本の敗戦後、空を飛べなくなった時にデパートに勤めていたのですが、

「このデパートは店員のほとんどが女の子で、60〜70人ぐらいはいたね。・・・後楽園のスケート場を借り切ってみんなでスケートをやったり、ダンスパーティを開いたり。海の近くに空き家を見つけて、そこをデパート専用の『海の家』にして女の子を呼んだりもした。戦時中と比べたら、そりゃ天国みたいなもんだった。優雅だったよ」

という具合です。

しかし、単に高橋さんが、全くいい加減な人だったら、パイロットとして長くやれなかったはずです。

そして、彼は空の仕事に戻ってからも、仕事を楽しんでいます。自作機のテスト飛行などは、高橋さんの他にやる人がいなかったそうです。

この本でも、それらの自作飛行機を写真付きで楽しそうに解説しています。

「大工さんが作った飛行機というのがこれだ。・・・牧野式HMO-235って名前で、牧野敏夫さんって人がつくったのだけど、235はフミコさんって奥さんの名前だそうだ。・・・ところがケツが重いせいで、いくら滑走してもケツがあがらないじゃないか。・・・2-3日して直してきて・・・見たら、おしりを30cmくらい削っただけなんだよ。そりゃ、2-3日でできるよな。それで写真のようにケツが浮いて、めでたく初飛行となったね」

「これが大工さんの紹介でテストすることになったそば屋さん、澤野四郎さん製作のS25Xミスタースムーシーって名前の飛行機だ。フォルクスワーゲンの35馬力のエンジンを最初は積んでいたけれど、複座になって同じワーゲンの53馬力エンジンに取り替えてたな」

別の肥後盛文さんという大工さんの作った全木製の飛行機は、木製プロペラが長すぎてテスト飛行の時に回転があがらなかった。その時に肥後さんはどうしたか?

高橋さんは言う「いきなりのこぎりを取り出してプロペラ切り始めたじゃないか。たまげたね、あの時は」

他にも、高橋さんは、天野さんというコンビニのオーナーが10年かけてコツコツ作ったアマノ式A-1という飛行機とかもテストしています。

もちろん高橋さんは、普通のメーカーの飛行機は何十機も乗っています。

高橋さんは過去に乗った飛行機の紹介を、女性にたとえて楽しそうです。その見出しだけ、いくつか紹介します。

「PA34セネカは足弱娘だ」
「けっこうパワフルな大ざっぱ娘 ステンソンL・5センチネル」
「タフなマウンテン・レディ、ロッキード・アスカルテ」
「質素で非力も声だけだかいフランス娘、モランソルニエMS・880ラリクラブ」
「そっぽ向いて走れる。ヘリオ・クーリエ395」
「偏屈娘は冥途のお供! レーク・パッカニア」「着地でぐする快速娘、ムーニー・シリーズ」
「洗練されたフランス娘、ソカタ・シリーズ」
チェコの優等生美女、プラニタL13」

等々です。言い方もお洒落だし、読むと楽しそうです。

「最高齢プロフェツショナルの教え」と言う本が15人の高齢のプロフェツショナルの人を紹介しています。実はその中に、高橋さんも入っています。

しかし、こちらの本での高橋さんの発言は「出撃前に『危なそうだ』なんていうやつは生還できない」とか「最近は万年平社員みたいなヤツが多い」などの見出しです。若い人へのアドバイスや心構えを説く内容なので、高橋さんの特質が出ていないように思います。

やはり、高橋さんの特徴は、率直さと人生を楽しむことではないでしょうか。彼は、好きなこと(適性のあること)を楽しんだ人が成功するという方向の実証者です。どうせなら、その方がいいし。実は本当は、その方が無理が少ないのかもしれないと思うのです。

しめくくりのひとこと

「俺はまだまだ飛び続けるつもりでいる。次は飛行場で会おうぜ」