『人は死なない』矢作直樹 その②

『人は死なない』矢作直樹 

2023年9月27日 第32刷発行

その①でも延べましたが、矢作先生は、東大の名誉教授で、それまで軽視されていた総合救急医療とその教育体制を東大病院に作った人です。

 

②では、この本の第三章の「非日常的な現象」から一部を引用して論じます。

 

矢作先生が救急外来で治療した20歳代の女性のBさんについての話です。

(以下の『』は矢作先生の本からの引用で矢作先生の言葉です)

 

矢作先生

『Bさんは、・・・状況から、マンションのどこかから墜落したらしい。・・・救急外来に到着した時はショック状態だった。このとき、Bさんの様子が尋常でないことに気付く。・・・意識が異常に晴明だった』

 

・矢作先生は、最初からBさんに特別な印象を受けたようです。

 

 

矢作先生

『入院24日目、気管切開チューブを発声ができるチューブに入れ替える・・・翌日、意識がしっかりしてきたので精神科の診察を受けたところ、・・Bさんは「飛び降りは自殺しようとしたものではなく、霊に乗り移られたためです」と言った。当時、うかつにも私はこの言葉にあまり注意をはらわなかった』

・矢作先生は「うかつにも」と言っていますが、「霊に乗り移られた」と聞いたら、誰でも、それは嘘か妄想だと判断するでしょうね。

 

矢作先生『入院29日目の夜から人工呼吸器の使用を止める。・・・入院1月目、本人の希望により精神科受診をしたところ・・・明らかなストレス因子も特定てきない・・・特に治療を必要としないことになった』

・Bさんには精神病はないようです。そしてBさんは、入院99日でリハビリ病院に転院します。

矢作先生はその5年後に、Bさんが外傷性動脈瘤を東大病院で手術した時にも食堂で会っています。

その後、矢作先生は、Bさんのことが記憶にひっかかっていて、Bさんに連絡をとって話を聞くことになります。

矢作先生は、Bさんの印象にギャップを感じていたのです。しかし、先生以外の第三者がBさんの奇妙な話を聞くことはなかっただろうし、Bさんも話をしなかったかもしれません。

 

 

(以下の『』は、矢作先生が聞いたBさんの話です。それに私の解説をつけます)

 

Bさん

『私は人に相談を受けることが多く、そういうときにはすごく感情移入してしまう。そんな性向も、金縛りのような現象を受け入れやすくしていたのかもしれません。
 私の中に「他人」が入ってくるのを始めて意識したのは、ある日ひどい金縛り状態になって自分の体が自分のものでないと感じたときでした』

・Bさんは霊的に敏感な体質のようです。しかし、こういう体質の人は、勘が良かったりしますが、不都合を引き寄せることも多いようです。Bさんは「他人」と言う表現をしていますが、これは霊ですよ。

 

Bさん

『頻繁に「他人」に直接の話しかけられているような感じがするようになり、それが夜にまで及ぶようになっため、とうとう眠れなくなり疲れてへとへとになりました。そうこうしていると、ある女性が「あなたの体を借りたい」と私の頭の中に話かけてきました。その女性に「出て行って」と言おうとすると、泣き落としされてなかなか毅然と追い出すことができませんでした』

・霊が入り込んできたのです。Bさんは優しく同情心があります。しかし、毅然と追い出すべきでした。「泣き落とし」とは、その霊は自己中心的ですね。

なぜなら、そんな霊は、人に不都合をもたらしていることを分かっているはずだからです。Bさんのように、同情心が強すぎるのも、悪を助長することがあります。

 

Bさん

『そんなことが続き、自分が変だと気付いて何とか助けを求めたかったのですが、取り付いている「他人」に「あなたの夫に危害を加える。あなたをもっとひどい状態にする」と脅され、どうすることもできませんでした』

 

・そして、今度はこの霊は脅しに入っています。こうなると悪霊ですね。

Bさんを弱いと思うかもしれませんが、人間は弱点をつかれて精神的に追い込まれると、どうすることもできなくなりがちです。しかし、脅されても断固として「出ていけ」と出ていかせるべきでした。


Bさん

『いつ自分が実家からマンションまでやって来たのかまったく記憶がなく、飛び降りようとした記憶もありませんでした。本当に、気付いたときには落下するところでした』

・信じないかもしれませんが、実は、自殺の場合、霊にのりうつられて自殺する場合も多いのです。

 

Bさん

『回復後、病院に搬送されてからのは億もありません。回復後、救急外来で医療スタッフと言葉を交わしたと、うかがいましたが、本当にまったく何も覚えていないのです。ICUで回復した時には普段の自分に戻っていましたが、このとき「自分が記憶を失っている時に人に危害を加えるようなことがなくて本当によかった」と心から思ったものです』

 

・通常は霊に乗り移られる場合には、乗り移られる方にも霊と同調する心があると言われます。しかし、Bさんの話を信じるなら、Bさんには、それほどマイナスの心はなかったと思われます。それなら、なぜBさんは良くない霊に乗り移られたのか?

 

 

Bさん

『いま振り返ると、自分には外から「他人」が入ってこれる「場所」があったのではないかと思います。ただ、夫は私の中に「他人」が入ってくることがわかるようでした。というのも、私が知るはずもない夫の事情について、私が普段とは違ったしゃべり方で話すからです』

・先にも述べましたが、Bさんは霊媒体質だったようですね。それは危険なことなんですね。どうやって防げはいいのか。

 

Bさん

『この事故があって以来、私は何としても一生懸命生きようという強い意志を持って過ごしてきました。そのせいか、以前のように「他人」に入り込まれるようなことはなくなりました』

 

・強い意志が大事なようですね。Bさんのように直接に霊に乗り移られなくても、なんらかの影響を受ける場合もあるからです。

 

Bさん

『それからは自分をしっかり持ち「他人」に依存しないようにするとともに、あまり「他人」の話に引っ張られないように心がけるようにしました』

自分をしっかり持ち、他人に依存しないようにするということですね。Bさんは「他人」と言っていますが、霊のことです。しかし、この教訓は生きている他人に対してでも同じことだと思います。

 

Bさん

『かつての私は人の幸、不幸を見た目で判断していましたが、自分が今のような状態になってみてはじめてそれが誤りで、本人が自らの置かれた現実を受け入れ肯定していればそれでいいのだと知りました』

 

・これは一つの悟りですね。Bさんは、この事件というか経験で、一つの悟りを得ましたね。人は、親や他人や世間の評価に左右されて、自分と人生を見失ってしまいうことが多いです。だからBさんのこの悟りは普遍性があります。

Bさん

『私は今、自分の置かれた世界のすべてを受け止めることができて、とても幸せです。「あるがまま」に受け止める。悪い状況は永遠に続くわけではなく、その後はより良いものが得られるんだと実感しています。辛いときには・・・「大丈夫、大丈夫、大丈夫」と心に念じると、不思議に食欲がわき、ぐっすり眠れ、そして元気になります』

Bさんは下半身麻痺のままですが、これもBさんの得た悟りですね。

このBさんの霊的な体験をどう考えるか。これが矢作先生の主題ですね。

 

矢作先生のような立場の方が霊やオカルト的なことを発言するのは、損だと思うのてす。だから、矢作先生が後にBさんから話を聞いて、しかも、このように発表したことは、矢作先生の側の使命に関係していると思います。だからこそ、矢作先生はBさんに興味を持って話を聞きにいったのでしょうね。

また、矢作先生の他の著作を読んでも、先生の前世は医者や学者でなく、お坊さんか修道士だったろうと思ってしまいます。前世の存在を信じるなら(笑)。前世の存在を信じないなら、もともと、そういうタイプの人だということでしょうね。