高橋淳を読む 1回目 『95歳、余裕綽々 世界最高齢パイロットの人生操縦術』

1つの生き方

2018年3月25日初版『95歳、余裕綽々』高橋淳 

著者の高橋淳は、95歳の現役パイロットです。この本で、彼の生き方の流儀を覗いてみたいと思います。流儀というと固い言葉ですが、センスやスタイルと言う言葉の方が彼にはあうかもしれません。

 

彼は戦争中は海軍のパイロットでした。

「トラック島から飛び立って、雷撃と爆撃を1回ずつやった。40機ぐらいあった我が732部隊も、2、3機を残して全部やられちまった。・・・結局、732部隊は解散」

「沖縄攻撃を始めて3か月後の昭和20年(1945年)7月。そのときにはもう、僕の機体以外は1機も残っていなかった。転勤した乗員を除いてあとは全員、戦死だ」

生き残った彼は、戦後に色々な仕事をして、結局、また、空の仕事に戻ります。

戦争中は特攻隊に指名されたり、極限の体験を重ねてきた高橋さんですが、普通、そこから予測されるだろう性格には陰や厳しさの色合いが出るように思います。しかし、彼のスタイルは全く違うのです。

例えば、

・女性と飛行機の扱いは一緒

やっぱり人生一度きりだから、何事も楽しいのが一番だね。そんな性格の僕だから、とにかく厄介ごとが嫌いでね。仮に身近で揉めごとが起きたとしても、必要以上に首をつっこんだりはしない」

「ただ、僕は人より年をくっているし、人当たりも柔らかいほうだから、いろんな人から相談をされることはある。そういうときは、相手の話をよく聞いてやるに限るね。とくに相手が女性の場合はそう。考えてみりゃ、女性の扱い方ってのは、飛行機の操縦に通じるもんがあるな。天候はコロコロ変わるし、機種によって性格も異なる。・・・それぞれ扱い方を間違ったら痛い目にあう。・・・乱暴な操縦はご法度で・・・聞き上手に徹して・・・」

女性と飛行機は一緒という比喩を持ってくるところなど、高橋さんらしくて面白いのです。

 

 

また、

「家には、現役最年長パイロットであるというギネスの認定証のほか、厚生労働大臣国際航空連盟からもらった赤十字飛行隊のボランティア活動に対する表彰状もあるけど、そういったものは部屋には飾らない。すべて押入れの中にしまってあるよ」

これも高橋さんのスタイルですね。古い日本家屋などで鴨居におじいさんの表彰状などが飾ってあるのは微笑ましいのですが。高橋さんは、自慢したいとか威張りたいという気持ちがない人ですね。それと、「インタビューや取材も家では受け付けない」なので、仕事(飛行機)と家庭は分けるスタイルなのでしょうね。

 

・居丈高に振る舞って得することはない

「現役最年長パイロットだからといって、偉そうに踏ん反り返っていたら・・・相手が年下だろうがなんだろうが、自分から率先して挨拶をするのさ。
『やあ、こんにちは』と笑顔でね。そうすりゃあ自然と会話も弾んでいくもんだ。
居丈高に振る舞って得することなんて何もありゃしない。第一、僕は自分のことを偉い人間だなんて思っちゃいないんだ」

 

高橋さんの性格は良い意味で外人みたいなところがあると思います。日本人はメンツやタテマエにこだわる人がわりに多いのですが、彼にはそれがないのです。反面、戦死した戦友をずっと思うというような良い意味での日本人的なウェットさもないようです。

・健康について

「健康のために意識していることといえば、さっき言った胸を張って歩くこと以外だと、『食事は腹八分目』『睡眠は毎日8時間程度』は取るってことぐらいだね。・・・ここ何十年、満腹になるまで食べた記憶がない」

・お金について

「裕福であろうが貧しかろうが、見栄を張らないのが一番だ。人前でいい格好をしたがる奴は長持ちしない。90年生きてきた僕が言うんだから間違いないよ」

 


・入れ歯だけはいいものを使おう。

「かく言う僕だが、実は若い頃から、ほぼ『総入れ歯』なんだ(笑)。戦時に入れ歯になっちまったの。・・・今から40年くらい前だったかな。『飛行機の練習をしたい』という歯医者に出会ったのさ。・・・値段を聞いてぶったまげたね。全部で150万円だって言うんだ。・・・数十万円で済んだけど、その彼が作ってくれた入れ歯が、40年経った今もこうして活躍中なんだ
・・・歯がいいと、毎日の食事が楽しいし、長生きしたくなるもんだ。」

20歳の初めに総入れ歯でも。95歳まで元気に生きれるということと、入れ歯には金を惜しむなというアドバイスですね。

変わった話

高橋さんは、無理をせず、とても率直で実際的なタイプです。こういう性格もいいと思うのです。

しかし、個人主義で率直で実際的な高橋さんですが、その高橋さんが一つだけ変わったことを言っています。

「これは戦争中の話だけど、自分の能力以上のことは、『頭の後ろにいるもう1人の僕』が何かを指図してくれているような感覚を何度か感じたことがある。・・・『あっちから弾が飛んできたら、こっちへ避けろ』と、後ろから指図をしてくれていたような気がするんだ」

 

おわりに

95歳現役パイロットということは、65歳で定年になっても、まだ30年もあるということです。これは、私には希望になります。

 

高橋さんは「おわりに」で最後に、次のように言います。

「寝ている最中に夢を見ることがよくあります。それは楽しい夢ばかり。仲間と飛行機に乗って空を飛んでいる夢もたまにみます。でも不思議なことにね戦争中の夢は見たことがない。・・・一度きりの人生です。誰かをこらしめるためでなく、誰かを喜ばせるために生きてみませんか 2018年3月 高橋 淳」